12 宮沢賢治「高原」について

 
 今年の1月、又、賢治の詩について、駄文をものにした。
例のように、会報に投稿したが、残念ながら、ボツであった。
自分としては、かなり面白いと思ったが、仕方がない。
 取敢えず、このページに載せて、多少でも陽の目にあたらせたい。(28年6月15日)


  詩「高原」について

昨年秋、町内の老人クラブに依頼されて宮沢賢治の詩について話すことになりました。自分も、そこの正会員なので、否応なく引き受けました。時間は30分という、ごく短い時間なので、それに相当するように、と、「雲の信号」「岩手山」及び「高原」と詩集「春と修羅」に所収された詩の内で短いものを3つ選びました。「高原」は近くの公園に石碑もあり、ほとんどの人が一度は読んだり聞いたりしているので、また、花巻祭りでもおなじみの鹿踊りも登場するので、妥当な選択と考えました。

 その、準備に「高原」(以下「詩」と云う。)を、初めてというぐらい丁寧に読みなおしました。念のため、詩を次に示します。

    高原

  海だべがど おら おもたれば

  やっぱり光る山だたぢゃぃ

  ホウ

  髪毛風吹げば

  鹿踊りだぢゃぃ

 冒頭の2行では、あまり山に登ったことのない人と、もう一人はベテランの人が一緒だという感じがしました。初心者は、遠くに光って見えるものがあったので、それを反射的に海かと思い口に出したのでしょう。それを聞き、ベテランは、あれは山だよと教えました。初心者はその言葉にすぐに納得した様子です。

 もう少し行くと、風が強く吹き上げ、初心者の髪の毛が自分の顔にまつわり付いたのでしょう。そのひとは、一瞬、いつか見た鹿踊りの舞手が髪を振り乱して舞う様を思い浮かべたのでしょう。

 大正の頃、風でこのように髪がまつわりつくように頭髪が長いのはどのような人なのかと考えた時に、ひょっとして少女かな、と、思い始めました。

 1行目に「おら」と云っていますが、花巻周辺では最近まで女性も「おら」と云っていました。特に思春期前の女子はそれが当たり前でした。やっぱり少女が主人公です。

 では、その少女は具体的に誰だったのか、と、調べてみました。意外に早く、その解答が出てきました。偶々手元にあった「宮沢賢治全集 月報5 昭和42年12月 第七巻 付録 筑摩書房」4頁に森荘已池さんが「賢治の妹さんから聞いたこと 二」と題して、シゲさんが賢治と岩手山に登った時のことが書かれていました。あわてて、同付録の4号を探しましたが、どこかに紛失したらしい。幸い、森さんはその時に聞いた話を、後日、「宮沢賢治の肖像」(津軽書房)として昭和49年に発行しています。同書の「賢治の妹さんから聞いたこと」220頁を読むと、大正十年九月十三日に賢治は妹シゲさん(当時19歳)及びクニさん(当時13歳)と一緒に岩手山に登った時のことが詳しく書れています。同書222頁にクニさんの話として、「とても強い風が吹き上げました。吹きとばされそうなので、兄さんのからだに、つかまって」とあります。クニさんが主人公だったのです。先に書いた「髪がまつわり付いた」時に鹿踊りの髪毛を連想したのでしょう。その登山の数日後9月17日が花巻祭りで鹿踊りも町に繰り出します。(19歳になったお姉さんのシゲさんは、髪の形も言動もお姉さんぽかったのでしょう。)

 もっとも、森さんは同書220頁に、「シゲさん、クニさんを連れて岩手登山をしたことは、短歌、詩、童話、どこにも全くその影さえもおとしていない。」と述べています。

 ではなぜ、この詩も「影さえおとしていない」ように見えるようにしてしまったのでしょうか。これは全くの憶測ですが、一つの回答は、同書221頁に読み取ることが出来ます。岩手山は霊山であり女性が登ることは当時はまだ一般的ではなかった、従って、賢治も自分から妹たちを連れて行こうとは思っていなかった。弟清六さんが、父から、「私(シゲ)たち二人を岩手登山に連れていけ」、と、いわれて困惑している様子を見かねて、やむを得ず賢治が同道した。と、書いております。信心深い賢治ですから、霊山にたいし、妹を連れて行ったことの多少の気兼ねがあったのではないでしょうか。それともたんなる恥ずかしがりでしょうか。

 また、この詩が書かれた大正十一年六月廿七日(シゲさんたちの登山の翌年)、その同じ日に、別に「岩手山」と名付けた詩も完成させたことも影響しているのでしょうか。

 では、なぜ「高原」という題名を選んだのでしょうか。残念ながら、この段階では、全く不明です。ただ直接関係は無いかもしれませんが、同じ221頁の最後の行にシゲさんが「岩手山を背にした高原の気持ちのよい美しい」、と、森さんに話したそうです。少なくとも彼女は岩手山と高原を一連として思っているようです。

                                   (平成28年6月15日)

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